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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)2444号 判決 1967年1月23日

原告 東京トヨペット株式会社

右代表者代表取締役 九重検一郎

右訴訟代理人弁護士 宮内重治

同 田坂昭頼

同 萬了

被告 能勢十一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、双方の申立

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金百三万円及びこれに対する昭和四一年二月一六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求めた。

被告は請求棄却の判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)、原告は、昭和四〇年六月一二日訴外高橋良造に別紙物件目録記載の自動車(以下本件自動車という)を売渡し、その売渡代金のうち五八五、五〇六円については、同年七月より昭和四二年六月まで毎月三〇日限り(但し二月は二八日)二四、三〇〇円宛(但し昭和四〇年七月は二六、六〇六円)支払うこと、債務不履行の場合には期限の利益を失い、日歩八銭の割合による損害金を支払うことを約し、この債務を担保するため被告から右自動車について抵当権の設定を受け昭和四〇年七月一六日抵当権設定登録を受けた。

(二)、被告は同年一二月一日訴外関根世子に対する一三九、〇〇〇円の債務の担保として前記高橋から本件自動車を預り、昭和四一年二月一五日当時においてもその占有を継続していた。

(三)  ところで右高橋は、前記設定に基づく割賦支払を怠り売買代金のうち五一〇、三〇〇円の履行を遅滞したので、原告は、昭和四一年二月一〇日本件自動車に対する抵当権の実行として、競売申立をし、右自動車につき被告の占有を解き、原告が委任する執行吏にその保管を委ねる旨の監守保存決定を得、同月一一日東京地方裁判所執行吏松本弘に右決定の執行を委任した。その後右執行吏の代理相原忠夫は、同月一五日被告肩書地において被告に右決定正本を示し、右自動車の引渡を求めたが、被告は、原告が同自動車について抵当権を有することを知りながら不法にもその引渡を拒み、その所在をも明らかにしなかったので、原告において右自動車を発見できず、ために右決定の執行は不能となった。

(四)  その結果右抵当権の実行は不可能となり、原告は、同日現在における本件自動車の価格相当額四三万円の損害を受けた。

(五)  よって、原告は、被告に対し損害賠償として四三万円及びこれに対し被告が前記決定の執行を不能にし、ひいては抵当権の実行を不可能にした昭和四一年二月一五日の翌日である同月一六日以降支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(六)  仮りに被告が本件自動車の引渡を拒み、その所在をも明らかにしなかっただけでは抵当権の実行が不可能になったとはいえないにしても、被告の右行為後原告の調査によっても右自動車の所在は判明せず、そのため原告は既に七ヶ月以上抵当権の実行が妨げられている。ところで、本件自動車のような中古車にあっては全然使用しないでいる場合でも時価が少くとも一ヶ月二万円の割合で下落するのであるから、原告は、被告の右行為により少くとも一四万円の損害を受けていることになる。したがって、被告は原告に対し少くとも一四万円の損害賠償をする義務がある。

三、被告の答弁

請求原因(一)の事実は不知、同(二)の事実のうち、被告が昭和四一年二月一五日当時において本件自動車を占有していたことは否認するが、その余の事実は認める。同(三)の事実のうち、被告が執行吏から、本件自動車の引渡を求められこれに応じなかったことは認めるがその余の事実は争う。同(四)の事実は否認する。同(五)は争う。同(六)の事実は不知。

四  証拠関係≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によると、請求原因(一)の事実が認められ、また被告が昭和四〇年一二月一日訴外関根世子に対する一三九、〇〇〇円の債権の担保として訴外高橋良造から本件自動車を預ったことは当事者間に争がない。

次に、≪証拠省略≫を総合すると、原告は、本件自動車に対し抵当権の実行として競売の申立をし、同自動車について被告の占有を解き原告の委任する執行吏にその保管を委ねる旨の監守保存決定を得、その決定に基づき、昭和四一年二月一五日東京地方裁判所執行吏松本弘代理相原忠夫は、被告に対し右自動車の引渡方を求めたが、被告は現在占有していない旨述べ、その当時における右自動車の保管者の住所氏名を明らかにすることを拒んだこと、そのため右決定の執行が不能になったことが認められる。

ところで、原告は、右決定の執行の際被告が本件自動車の引渡を拒み、その所在を明らかにしなかったことを理由に、第一次的には右自動車の価格相当額の損害を受けたとし、第二次的には抵当権実行が妨げられた期間における右自動車の値下り額相当額の損害を受けたとして、被告にその賠償を求めているので考えるのに、被告が右決定の執行当時本件自動車を占有しており、かつ原告が同自動車について抵当権を有していることを知った上で、右自動車の引渡を拒み、或いはその所在を故意に隠蔽したのであれば、一般に自動車の性格、機能からいってその探索発見は不可能に等しいといえるから、その後原告において右自動車の所在が発見できず、また容易に発見し得る状態にない限り、被告が抵当物件としての右自動車を滅失させた場合と同視して妨げないものというべく、したがってその場合原告は、債務者である訴外高橋良造から債権の満足を得られる見込のない限り、右自動車の価格相当額(債権額の方が少額であるときは債権額)の損害を受けたものとして被告にその賠償を求め得るものと解するのが相当である。そこで、被告が右決定の執行当時本件自動車を占有していたかどうか検討するのに、証人木美貢はこれを肯定する趣旨の証言をしているが、その証言部分は、被告本人の供述に照らして採用し難く、他に被告が当時右自動車を占有していたことを認めさせるに足る証拠はない。しかして、自動車を占有していない者が監守保存決定の執行を受けた場合、その者がたまたま自動車の占有者及び所在を知っていても、そのことを告知する義務があるとは解し難いから、本件の場合、被告が前記決定の執行当時本件自動車の占有者及び所在を知っていてこれを明らかにしなかったとしても、これをもって違法であるということはできない。

二、してみると、原告の本訴請求は、他の点について判断するまでもなく、理由がないことに帰するからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明)

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